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【司法書士監修】相続人に認知症の人がいたらどうする?遺産分割協議を進める方法と成年後見制度の注意点を徹底解説

 

【司法書士監修】相続人に認知症の人がいたらどうする?遺産分割協議を進める方法と成年後見制度の注意点を徹底解説

高齢化社会が進む現代において、相続が発生した際に相続人の中に認知症の方がいらっしゃるというケースは非常に増えています。ご家族が亡くなり、悲しみの中で様々な手続きを進めようとした矢先、「認知症の相続人がいると手続きが進まない」という壁に突き当たり、途方に暮れてしまう方も少なくありません。

結論から申し上げますと、認知症などで判断能力が不十分な相続人がいる場合、そのままでは遺産分割協議を行うことはできません。もし無理に進めてしまうと、後からその協議自体が無効になってしまう恐れがあります。

本記事では、相続人に認知症の方がいる場合の正しい手続きの進め方や、解決の鍵となる成年後見制度の仕組み、そしてスムーズに解決するためのポイントを、司法書士の視点から分かりやすく解説します。

1. なぜ認知症の相続人がいると手続きができないのか

遺産相続が発生すると、通常は相続人全員で「誰がどの財産をどれだけ受け取るか」を話し合います。これを遺産分割協議と呼びます。

まずは、なぜ認知症の方がいるとこの協議が進められないのか、その理由を法的な観点から見ていきましょう。

意思能力の有無が法的な有効性を左右する

法律上、契約や協議などの法律行為を有効に行うためには、自分が行う行為の結果を理解できる能力、すなわち「意思能力(いしのうりょく)」が必要です。 認知症の程度が進み、この意思能力が失われている状態にある方が参加して作成された遺産分割協議書は、法律上「無効」と判断されます。

仮に、他の親族が良かれと思って書類を代筆したり、本人の手を引いて強引に実印を押させたりして手続きを強行したとしても、それは正当な手続きとは認められません。最悪の場合、私文書偽造などのトラブルに発展する可能性すらあります。

後から無効になるリスクと実務上のストップ

もし不適切な状態で遺産分割を行ってしまうと、将来的に他の相続人や親族から「あの時の協議は本人の意思に基づいていないため無効だ」と主張され、親族間の大きな法的トラブルに発展する可能性があります。

また、実務的な面でも大きな障害が発生します。法務局での不動産の名義変更(相続登記)や、銀行での預貯金の解約・払い戻し手続きの際、窓口や書面で本人の明確な意思確認が求められます。ここで銀行や法務局が「本人の判断能力に疑義がある」と判断した場合、すべての手続きがその時点でストップしてしまうことも珍しくありません。

そのため、相続人に認知症の方がいる場合は、感情やその場の都合で押し通すのではなく、法律に則った適切なステップを踏むことが不可欠なのです。

2. 解決の鍵となる「成年後見制度」の仕組み

認知症などにより判断能力が十分でない方に代わって、法的な手続きや財産管理を行う人を立てる制度を「成年後見制度(せいねんこうけんせいど)」といいます。 相続人に認知症の方がいる場合、この制度を利用して「成年後見人(せいねんこうけんにん)」を選任し、その成年後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加することで、初めて有効な相続手続きが可能になります。

成年後見人の役割と「法定相続分」の原則

成年後見人は、本人の利益を最大限に守る立場として遺産分割協議に参加します。ここで非常に重要なのは、成年後見人は「本人が損をしないよう、基本的には法定相続分(ほうていそうぞくぶん)を確保する方向で協議を行う」ことが家庭裁判所から求められる点です。

例えば、「認知症の母には今後の施設費用だけを残し、残りの不動産や預貯金はすべて子が引き継ぐ」といった偏った遺産分割は、本人の不利益となるため原則として認められません。成年後見人は本人の財産を守る義務があるため、原則として法律で定められた割合(法定相続分)以上の財産を本人に取得させる必要があります。

判断能力の状況に応じた3つの区分

認知症の程度(判断能力の状況)によって、選任される区分が以下の3つに分かれます。家庭裁判所が本人の診断書や鑑定結果をもとに、どの区分が適当かを判断します。

3. 成年後見人が選任されるまでの流れと期間

成年後見制度を利用するためには、本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ申立てを行う必要があります。具体的な流れは以下の通りです。

ステップ1:書類の準備

まずは申し立てに必要な書類を収集・作成します。

ステップ2:家庭裁判所への申立て

書類が揃ったら、本人の住民票がある地域を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。この際、親族などを後見人の候補者として推薦することも可能です。

ステップ3:調査・鑑定

裁判所の職員(家裁調査官)による申立人や候補者への聞き取り調査が行われます。また、本人の判断能力の程度をより正確に把握するため、必要に応じて医師による精神鑑定が行われることがあります(鑑定には別途費用がかかります)。

ステップ4:審判・選任

裁判所が提出された書類や調査結果を総合的に判断し、最も適任と判断した人物を成年後見人に選任します。選任されると、裁判所から「審判書」が届き、後見登記がなされることで正式に活動がスタートします。

申立てから選任までにかかる期間の注意点

申立てから実際に成年後見人が選任されるまでには、一般的に2ヶ月から3ヶ月程度の時間がかかります。 ここで特に注意が必要なのが「相続税の申告期限」です。

相続税の申告・納税は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行わなければなりません。認知症の相続人がいるからといって、この期限が自動的に延長されることはありません。

もし成年後見人の選任が遅れ、10ヶ月以内に遺産分割協議が調わなかった場合、差し当たり「法定相続分で相続したもの」として未分割のまま申告を行う必要があり、配偶者の軽減措置などの税制上の特例が受けられなくなるリスクが生じます。非常にタイトなスケジュールになるため、早めの着手が極めて重要です。

4. 成年後見制度を利用する際の見落とせない注意点

成年後見制度は相続手続きを法的に円滑に進めるための有効な手段ですが、一度利用を始めると長期的な影響が及ぶため、いくつか留意しておくべきデメリットやポイントがあります。

1. 相続人自身が後見人になれない場合がある(利益相反の壁)

よくあるケースとして、亡くなった父の相続人が「母(認知症)」と「子(長男)」の2人である場合を考えてみましょう。長男が母の成年後見人になって遺産分割協議を行えばスムーズに思えるかもしれません。 しかし法律上、長男と母は共に「相続人」という利害が対立する立場になります。長男が自分の取り分(相続分)を増やせば、自動的に母の取り分が減ってしまうため、これを「利益相反(りえきそうはん)」と呼びます。

このようなケースでは、長男が母の後見人として遺産分割協議に参加することは法律上できません。対策として、家庭裁判所に臨時の代理人である「特別代理人(とくべつだいりにん)」の選任を申し立てるか、あるいは当初から利害関係のない司法書士などの専門家を後見人に選任してもらう必要があります。

2. 制度は一度始めると原則として辞められない

多くのご家族が誤解しがちなのが、「相続手続きが終わったら成年後見人を辞めさせられる」という点です。成年後見制度は、あくまで「本人の生活と財産を生涯にわたって守るための制度」です。

そのため、相続手続きが完了したからといって途中で制度をやめることは原則としてできません。本人の判断能力が劇的に回復しない限り、本人が亡くなるまで継続します。後見人は、その後も定期的に家庭裁判所へ本人の収支や財産状況の報告義務を負い、厳格に管理し続ける必要があります。

3. 長期的な費用(専門家への報酬)が発生する

親族が後見人に選ばれず、司法書士や弁護士などの専門家が成年後見人に選任された場合、本人の財産の中から月額の報酬が発生します。

この基本報酬は、本人の管理財産額に応じて月額2万円〜6万円程度が目安となり、これが本人が亡くなるまで毎月続きます。相続手続きのスポット費用だけでなく、こうした長期的な運用の経済的負担についても事前によく理解しておくことが大切です。

5. 【生前対策】認知症になる前であれば選択できる2つの方法

もし、この記事をお読みの方の中に「将来、親が認知症になってしまったら相続が大変になりそうだ」と、事前にリスクを予見されている方がいらっしゃれば、生前に対策を打つことで成年後見制度を使わずにスムーズな遺産承継を実現できます。

方法1:遺言書の作成

被相続人(財産を遺す方)が、生前に有効な「遺言書(いごんしょ)」を作成しておく方法です。 遺言書の中に「どの財産を誰に相続させるか」が明確に指定されていれば、死後に相続人全員で遺産分割協議を行う必要自体がなくなります。つまり、相続人の中に認知症の方がいたとしても、その方の同意や署名捺印をもらうことなく、遺言書に基づいてダイレクトに不動産の名義変更や預貯金の解約手続きを進めることが可能です。 安全性を高めるためには、公証役場で作成する「公正証書遺言」を選択することをおすすめします。

方法2:家族信託の活用

近年、非常に注目を集めているのが「家族信託(かぞくしんたく)」という財産管理の手法です。 これは、親の判断能力がしっかりしているうちに、特定の財産(実家不動産や預貯金など)の管理・処分権限を信頼できる子などの家族に託す契約です。 家族信託を組んでおけば、万が一その後に親が認知症になって判断能力を失ったとしても、受託者である子が親に代わって実家を売却して施設費用に充てたり、財産を適切に運用したりできます。さらに、契約の中で「親が亡くなった後は誰に財産を引き継ぐか」を決めておくことで、遺言書と同じような効果を持たせることができ、死後の遺産分割協議を不要にできます。

これらの対策は、あくまで「本人の判断能力がしっかりしていること」が絶対条件です。認知症が発症・進行してしまった後では、遺言も家族信託も利用できなくなってしまいますので、元気なうちの早期対策が何よりも肝心です。

6. スムーズな相続のために専門家(司法書士)ができること

相続人に認知症の方がいる場合の手続きは、一般的な相続手続きに比べて、複雑な法律知識と家庭裁判所との専門的なやり取りが必須となります。ご自身だけで進めようとすると、書類の不備で何度も裁判所に足を運ぶことになり、精神的にも時間的にも大きな負担がかかります。

司法書士にご相談いただくことで、以下のようなトータルサポートが可能になります。

私たち司法書士は、法律の専門家として、認知症になられたご本人様の権利と財産を守りながら、残されたご家族の絆が壊れないよう、円満な相続手続きを全力でサポートいたします。

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相続手続きを後回しにしたり、間違った方法で進めてしまったりすると、親族間のトラブルに発展したり、手続きがさらに複雑化して余計な費用や時間がかかってしまうこともあります。大切な財産とご家族の笑顔を守るため、まずは第一歩を踏み出してみませんか。

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この記事の執筆者
司法書士法人 渡邉事務所 代表 渡邉 一史
保有資格 司法書士
専門分野 相続 遺言 生前対策
経歴 平成17年4月27日 渡邉一史がリキ総合事務所内で渡邉司法事務所開設
平成17年7月21日 木下敬規がガーネット司法事務所を開設
平成20年7月1日 渡邉司法事務所とガーネット司法事務所が合併
平成21年6月1日 司法書士法人渡邉事務所を設立
平成22年7月23日 東広島市に従たる事務所を開設

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